ゼロアートのMickeyです。
今回は、5つのフレームワークからなる立体的美術鑑賞法の、2つ目の鑑賞の型「鑑賞チェックシート」をご紹介します。
「鑑賞チェックシート」を使いこなして、
「みる」から「観察する」へとレベルアップ!していきましょう。
前回ご紹介した、「おおざっぱに掴む」鑑賞フレームワーク「3P」はこちらです。
目次
見えなかったものが見えるようになる!鑑賞チェックシートとは?
2つ目の鑑賞の型は「鑑賞チェックシート」、実際に使うのはこちらのシートです。
このシートを使って、「作品をつぶさにみて、そして観察」していきます。
そうすることで、見えないものが見えるようになる「きっかけ」を、掴んでいただくことができます。
作品をみる時に、この「鑑賞チェックシート」が必要なのは、なぜでしょうか。
それは、人間にとって「物事を正しく見る」ということがとても難しいからです。
例えば、だまし絵。
こちらはよくある「だまし絵」ですが、同時に2つの見方ができる作品になっています。
「老婆」にも「若い女性」にも見えるのですが、あなたはその両方を見ることができるでしょうか。
わたしは、種明かしをしてもらわないと「老婆」が見えませんでした。。
つまり人間は、物事を「自分の見たいようにしか見ていない」わけです。
そして実際に人間がちゃんと物事を見て「記憶していること」は、実はそんなに多くないのです。
というわけで、作品鑑賞をしていく「第一歩」として、
画面に「何が描かれているのか?」を「漏れなく、くまなく」観る
ことが、基本になるのです。
これを実践するための鑑賞の型が、この「鑑賞チェックシート」です。
まずはこのシートに沿って、以下5つの観点から作品を分解し、つぶさにみる=観察することを試みてください。
①モチーフ:「描かれているものは何か」を細かく見る
②色:「色彩はどうなっているのか」を細かくみる
③明るさ/暗さ:「明暗はどうなっているのか」を細かくみる
④シンプル/複雑:「シンプルなのか複雑か」を細かくみる
⑤サイズ:「大きい/小さい」を細かくみる
そして最後にその作品が、総合的に「好きか嫌いか」を書きだしていきます。
⑥総合すると、好き嫌い?:「好み」を総合的にみる
あまり難しく考えず、自分が感じたまま
・「何が?」
・「どのように?」
描かれているのかを、楽しみながら書き込んでいくのがポイントです。
これを繰り返し行うと、作品を観る行為が、「みる」から「観察する」へと変化していきます。
「みる」から「観察」に昇華できると、「美術鑑賞のレベル」はあがっていきます。
それではひとつづず、解説していきます。
① モチーフ
「モチーフは何か?」を意識的にみていきます。
主に作品に描かれているものを、以下4つ観点で意識的に書き出し、漏れなく記入します。
・テーマは何か。(神話/宗教/肖像/風俗/風景/静物、など)
・人物はだれか。(人間/神話の神々/権力者/王様/貴族/庶民、など)
・物はなにか。(食物/動物/自然/日用品、など)
・場面はどんな状況か。(季節/時間/天候/場所、など)
この項目を通じて、作品に何が描かれたり表現されているのかを、正確に把握しましょう。
実は西洋絵画のモチーフには、様々な意味が含まれています。その意味がわかると、もちろん作品への理解は深まります。
ですが最初は、「モチーフによっては意味が込められている場合がある」ことを、頭の片隅に入れておくだけで十分です。
それよりもまずは、描かれているものを見落とすことなく記入し、正確に把握することを目標にしてください。
② 色( どんな色が使われているか)
どのような色が使用されているかを把握します。
特に以下2点について、注意深く観察しましょう。
・主に使われている色はどんな色か
・それ例外の色で印象的に使われている色はどんな色か
色の理論も、奥深いです。
例えば、色相環で対角にあるものは補色関係にあり、互いの色を引き立てあう相乗効果があります。
真上の黄色と真下の青を隣同士に並べると、コントラストがはっきりするのはそのためです。
確かに、このように理論を知っていると、作品鑑賞をする時の視点が増えます。
ですがまずは、「主に使われている色」と「印象的に使われている色」の2つを、漏れなく探しだすことから始めましょう。
③ 明るさ/暗さ( 全体の雰囲気)
3つ目は、画面全体の明るさについです。
感覚的に、全体として明るい雰囲気なのかどうかを判断し、5段階でチェックしてみてください。
作品の中に明るさと暗さが同居しているような場合は特に、どんな印象を受けるのかを重視しましょう。
明暗についても、技法などを掘り下げるとより深い鑑賞につながりますが、
まずは感覚的に、全体的な明暗の雰囲気が5段階でどのレベルにあるのかを捉えてください。
④ シンプル/ 複雑( 全体的な要素の多さを捉える)
作品がシンプルか複雑かをチェックします。
総じて画面内に描かれている対象が多いほど複雑で、少ないほどシンプルといえます。
①のモチーフの記入と見比べながら、ここ(④)では、感覚的な判断を記入していきます。
例えばこちら、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》のように、
一画面に女性がひとりだけ描かれているような「1画面1対象」の作品は、究極にシンプルといえます。
一方のこちら、ベラスケスの《ラス・メニーナス》の場合は、
王様や従者や画家など、人物だけでも11名描かれていてる「1画面多対象」の複雑な作品です。
⑤ サイズ大きい/ 小さい
5つ目、最後の観点はサイズです。
正確な数値は、画集やWebなどで容易に確認いただけますが、
その前にまず、感覚的にその絵画のサイズをどう感じるか、をチェックしてみてください。
実際のサイズよりも大きく感じる作品があれば、逆に小さく感じる作品もあると思います。
そのような感覚も含めてチェックしてみましょう。
サイズというのは面白いもので、同じ作品であってもサイズを変えただけで、人に与える印象が変わります。
同じ絵画を見ているはずなのに、Web上でみるのと実物とでは印象が違う、と感じるのはそのためです。
また、西洋では、大きいもののほうがよいとされるため、西洋絵画(特に古典)の大画面には、高貴・高尚なモチーフが描かれます。
画集などで見る限り小さなサイズのように感じられた作品が、実際には大画面に描かれているとしたら、そこには何か理由があるはずです。そのような気づきから問いを立て、作品鑑賞を深めていくことも可能になります。
⑥ 好き/ 嫌い( 総合すると、どう感じたか)
ここでは、①〜⑤の各要素について、自分のフィーリングを書き込んでいきます。
例えば、①のモチーフをどの程度好きと感じるのか、②の色合いはどうか・・・ という具合に、ひとつづつ5段階でチェックし、レーダーチャートに書き込んでみてください。
この⑥が大きなチャートにになった作品は、あなたにとって心地よい、好きな作品だということです。
実際にいくつかの作品について、自分の感覚をレーダーチャートにあてはめていくと、
・どの部分に強く惹かれるのか
・どんな点を強く嫌悪するのか
といったことを、明確に「分けて」考えられるようになり、自分の好みの傾向がわかってきます。
そしていつのまにか、作品を読み解けるようになっていくのです。
*
最後の欄には、気づいたことを書き出しておきましょう。
一番好きなのはどんなところか、逆に一番どこか嫌いなのか、の2点に焦点をあてて自由に書いてみてください。
ご自身の意識がどこに向いているのかを、把握することができるはずです。
「鑑賞チェックシート」の実践:モネの「睡蓮の池」
それではここで、モネの「睡蓮の池」で実践した「鑑賞チェックシート」をご紹介します。
これは、あくまでもわたしが個人的に感じたことを記載した結果です。正解/不正解ではありませんので、ご留意ください。
【参考情報】モネの「睡蓮の池」については、こちらで詳しく解説しています!
あなたもぜひ、お気に入りの作品を題材に、実際に「鑑賞チェックシート」を記入してみてください。
例えばこんなことができるようになります。
・作品を「ありのまま」に見る
・作品の好き嫌いについて、自分の傾向がわかる
・今までは興味を持てなかった作品を楽しめるようになる
そして、たくさんの作品で実践することで、
・画面(作品)から、「漏れなく情報を受け取れる」ようになる
・「なぜ、これが描かれているんだろうか?」という風に、「次の問い」を立てられるようになる
という風に、少しずつですが見方が深まっていきます。
そうするうちに、次第に、西洋美術の流れを掴むことができるようになっていきます。
その「きっかけ」を、手に入れられるのが、この「鑑賞チェックシート」なのです。
*
いかがでしたか?
作品をありのままに見られるようなると、次のステップに進みたくなるはずです。
作品というのは当然「誰か(アーティスト)」が描いているので、「作品」の次にみるのは「人」になります。
ということで、次回は3つ目のフレームワーク「ストーリー分析」についてご紹介します。
アーティスト(人)をストーリー(物語)に沿って「分析していきましょう」という見方です。
お楽しみに!
参考文献:「論理的美術鑑賞法」堀越啓