ゼロアートのAkkoです。
私の好きなアーティストのひとりが、世界で知らない人はいない
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
です。
今回は、その中でも特に好きな作品のひとつ「星月夜」について、
ご紹介したいと思います。
1、ゴッホについて
星月夜という作品を見ていく前に、
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(1853‐1890)について、
3Pの観点からさらっと、わかりやすくご紹介できればと思います。
3Pとは、Place(場所)/Period(時代)/People(人)の三つの観点です。
Place
・オランダのプロテスタントの牧師の家に生まれ、主にフランスで活躍しました。
Period
・19世紀後半の1853年に生まれ、その人生は、わずか37年間という短さでしたが、
・ポスト印象派を代表する画家として歴史に残る傑作を残しています。
・実は、画家として活躍したのは、修行期間も含めて死ぬまでの10年ほどしかありません。
・この短期間のうちに、2100点以上の作品を書き残しました。
People
・幼少時より癇癪を起こしやすく、気性の激しさのあまり、うまく社会に適合できませんでした。
・画商や伝道師を志すもうまくいかず、結果、画家に生きる道を見出しました。
・ゴッホの湧き起こる「激しい生命力」を捧げる対象こそが、「絵画」というアウトプットでした。
・『伝道によってではなく、画家になり自分の作品を通じて、人々の心に慰めと安らぎを与えることこそが自分の使命であると決意』 引用―ゴッホとゴーギャンー より
2、「星月夜」について
「星月夜」1889年、73.7 cm × 92.1 cm、キャンバスに油彩、ニューヨーク近代美術館所蔵
さて、ではこの「星月夜」はどのような作品なのでしょうか?
この作品は、1889年、ゴッホが36歳の時に描かれました。1890年に亡くなるので、その前年にあたります。
この絵は、フランスのサン=レミのサン=ポール=ド=モーゾール療養院で描かれました。
療養院に入るきっかけとなったのが、画家のポール・ゴーギャンとの共同生活がうまくいかなくなったこと等により起きたと言われるあの有名な「耳切事件」です。
この事件をきっかけに、一番の理解者であった弟のテオに迷惑をかけないようにと思い、それまでは拒否していた精神病院へと入院することになりました。
それがこのフランスのサン=レミであり、この時に描かれたのが星月夜です。
では、この作品について「鑑賞チェックシート」の5つの要素から、この作品の画面を少し詳しく見ていきます。
・モチーフ
- 画面の2/3をしめる空
- 巨大な月と星
- S字型の渦巻く雲
- 山、糸杉、教会、家
・色
- 濃い青~淡い青
- 黒~緑
- 強い黄色~淡い黄色
・明/暗
- 夜空なので暗めに描かれているが、
- 夜にしては、明るいイメージ
・シンプル/複雑
- 様々なモチーフが描かれ、やや複雑な印象
・サイズ
- 73.7㎝×92.1㎝と普通程度のサイズ
この星月夜は、病室から描かれたとされていますが、ゴッホ作品には珍しい「想像の風景画」です。
勢いある渦巻く雲、星月の光の強さ、糸杉の存在の大きさを表すような激しい筆致が特徴です。
構図としては、浮世絵の構成を用いた奥行を感じさせる描き方で、画家が眼の前の風景を眺めているのではなく、その風景の中に包み込まれているような感じの描き方と言えます。
3、私なりに解釈する「星月夜」について
「星月夜」には様々な解釈があります。
例えば、聖書の黙示録や創世記との関連性や、陰陽説との結びつきなどが言われたりしていますが、どれも完全にこの絵を説明できるような納得できるものではないといわれています。
その理由のひとつとして、ゴッホは与えられたイメージを次々と画面に反映し、意味を重ね合わせていく型のアーティストだからです。
様々な暗示を含む、多様な意味が重ね合わされていても少しでも不思議ではないと言われています。
そして、比較してみるとよくわかるのですが、この星月夜は、「ローヌ河の星月夜」に比べて、空が占める面積が圧倒的に多いのが特徴です。
「ローヌ川の星月夜」1888年、72.5 cm × 92 cm、キャンバスに油彩、オルセー美術館所蔵
この点をもってして、ゴッホにとっての「星への旅」、すなわち、「死」が近づいていることを暗示しているように解釈されたりもしています。
このような心理的な示唆を、星月夜の描き方からも分析できるというのは、後付けかもしれませんが、すごいなと思います。
そして、このような解釈を踏まえて、わたしなりにどのように解釈するのか・・・。
それは、
「星月夜の夜空は、時代を越えて、私たちへ勇気を与えるメッセージ」
です。
私には、人間関係や仕事で挫折を繰り返しながらも、独自の表現を見出したゴッホの絵が、時代を超えて、現代の私たちに希望を与えているように思えます。
この広大な夜空の表現により、鑑賞する側にとっても、「星空と対話をしているような感覚」になり、ゴッホが夜空に込めたメッセージを受け取ることができます。
『アルルでの日々が過ぎ行くなか、描く対象を写実的にではなく、その対象にまつわる自分の感情を作品に表すことを決意した。ゴッホは自分の感情を寓意的でも象徴的でもなく、独学の画家らしく粗野ながらも力強く、そして思うままに表現しようと決意したのだった。こうして、印象を表わした印象主義ではなく、画家個人の内面的な感情を表現した表現主義が生まれたのである』
引用-ゴッホとゴーギャンーより
ゴッホには珍しい想像の風景画という点において、より強いメッセージ含まれているように思えます。そのメッセージとは、
・存在感がある糸杉は、キリスト教における象徴的意味は「死」とされており、
・画面の2/3をしめる空を下から仰いでいるような感じは「憧れ」、
・黄色はゴッホにとって生命を表現しているとのことから、
巨大な月と星に光の強さからは、「生への欲求、希望」、S字型の渦巻く雲からは、人間関係がうまくいかない「葛藤」、「孤独」を表わしていると感じます。
療養院に滞在中という不安定な精神状況の中で、凄まじい集中力で描いたとされ、筆致からのエネルギーの大きさを感じずにはいられません。
勢いよく渦巻く雲、死のモチーフとしての糸杉の存在。そして、夜にもかかわらず、星月が明るく、それは、孤独や恐怖を感じていながらも、「生」を力強く感じます。同時に、光の柔らかさも感じ、それは希望を照らしてくれているようです。
様々な挫折、苦悩の中続けた創作活動で、新たな表現主義を生み出し、次世代のアートの橋渡しという功績を作ったゴッホ。
それは、絶望を感じることがあっても、その中に希望を見つけ歩んでいくことの大切さを教えてくれているように感じます。
ネガティブなニュースが多く、将来への不安も抱きがちですが、そこで不安だけを抱えて留まるのでなく、多くの希望を抱き、進もう!ということを伝えてくれている感じがするのです。
ゴッホは、時を越えて、伝道師になれたのではないか。
この絵を見ていてそんなことを思い至ることができました。
*
いかがでしたか?
わたしのゴッホのこの絵の当初の印象は、筆遣いの感じが苦手で、どちらかというと、ゴッホも苦手でした。
ですが、その印象は見方を知っていく中で、上記のように変わってきました。
見方を知ると、考え方が変わり、そして、感情や行動も変わっていきます。
そのことを教えてくれた星月夜についてご紹介しました。
参考文献:「近代絵画史(上)」高階秀爾、「ゴッホの眼」高階秀爾、「ゴッホとゴーギャン」木村泰司
ゴッホについては、その生涯を以下の記事で解説しています。
また、7つのひまわりについても以下で書いていますので、よろしければご覧くださいね。