ゼロアートのAkkoです。
私の好きなアーティストのひとり、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。
前回は、ゴッホの代表作の「星月夜」についてご紹介しました。
ゴッホといえば、「ひまわりの画家」とも言われますが、
その「ひまわり」は、実は、7つあるのをご存じですか?
今回は、7つの「ひまわり」について、
ご紹介したいと思います。
1、ゴッホについて
7つの「ひまわり」を見ていく前に、
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(1853‐1890)について、
3Pの観点から簡単にご紹介できればと思います。
3Pとは、Place(場所)/Period(時代)/People(人)の三つの観点です。
Place
・オランダのプロテスタントの牧師の家に生まれ、主にフランスで活躍しました。
Period
・19世紀後半の1853年に生まれ、その人生は、わずか37年間という短さでしたが、
・ポスト印象派を代表する画家として歴史に残る傑作を残しています。
・実は、画家として活躍したのは、修行期間も含めて死ぬまでの10年ほどしかありません。
・この短期間のうちに、2100点以上の作品を書き残しました。
People
・幼少時より癇癪を起こしやすく、気性の激しさのあまり、うまく社会に適合できませんでした。
・画商や伝道師を志すもうまくいかず、結果、画家に生きる道を見出しました。
・ゴッホの湧き起こる「激しい生命力」を捧げる対象こそが、「絵画」というアウトプットでした。
・『伝道によってではなく、画家になり自分の作品を通じて、人々の心に慰めと安らぎを与えることこそが自分の使命であると決意』 引用―ゴッホとゴーギャンー より
ゴッホの人生については、以下の記事で詳しく解説していますので、よろしければご覧ください。
2、7つの「ひまわり」について
さて、では7つの「ひまわり」は、どのような作品なのでしょうか?
ゴッホは、1888年2月にパリから光を求めて、フランスのアルルに移り住みました。
そして、このアルルで、画家としての最初のピークを迎え、200点ほどの作品を描き、
「夜のカフェ」「黄色い家」などの傑作が生まれます。
「ひまわり」もその1つです。
では、7つ「ひまわり」について「鑑賞チェックシート」の5つの要素から、この作品の画面を見ていきます。
まとめると以下の通りになります。
ひまわり1
ひまわり2
ひまわり3
ひまわり4
ひまわり5
ひまわり6
ひまわり7
描かれているひまわりの多くは、花盛りをすぎて、散り、種になる状況の花です。
ゴッホは、モチーフとして風雨に耐えてきたものを好みました。
衰えの見えるひまわりを描くことで、逆にいきいきと魅力的に見せるという逆転の発想でした。
ですので、枯れた花が中心の絵でも、ネガティブな印象を与えません。
これが、世界中の人に、愛される絵としての理由の1つかもしれません。
3、「ひまわり」の変遷と「私の解釈」について
◆「ひまわり」の変遷
さて、「ひまわり」は、なぜ描かれ始めたのでしょうか?
実は、もともとは、アルルでゴーギャンを迎えるために、部屋を飾る絵として描かれ始めました。
ゴーギャンへの友情の証だったのでしょう。
このように、ゴーギャンがアルルに来る前から、ゴーギャンが去ったあとまで、ひまわりは描かれますが、以下が描かれた時期と主な出来事になります;
・「ひまわり1~4」は、ほほ同時に作成され、念願のゴーギャンとの共同生活に向けて意気揚々としている時、
- ゴッホは、弟テオへの手紙で「ひまわり3が一番いいものとなるだろう」と書いています。
- また、「ひまわり4」は、完成度が高く、高みに達した作品とも言われています。
・「ひまわり5」は、ゴーギャンとの共同生活の雲行きが怪しい時、
・「ひまわり6、7」は、「耳切事件」のあとに描かれたとされています。
さらに、ゴッホは、テオへの手紙で、祭壇画としての「ひまわり」について言及し、スケッチを残しています。
中央は、癒しを与える「ラ・ベルスーズ」という「子守女」を描いた作品です。この女性のモデルはアルル時代に中がよかった郵便局の事務員ジョセフ・ルーランの妻です。
この「子守女」を中央にすえ、両脇に同サイズの「ひまわり」を設置し、「三幅対(さんぷくつい)構造」を構想していたと考えられています。実際、1890年の20人展では、展示のためにこの構図を選んだそうです。
例えば、以下のような構図でひまわりを展示することを考えていたようです。
◆私の解釈
このような変遷の中で、わたしは前半に描かれた、ナショナルギャラリーの「ひまわり4」が一番好きです。
それは、
「夢にあこがれ、一番希望に溢れているひまわり」
だからです。
この「ひまわり」というモチーフは、西洋世界において伝統的に「太陽の花」、「芸術」、「愛」の象徴として描かれてきました。
従って、ゴーギャンの部屋を彩るために描かれた「ひまわり」は、ゴッホからゴーギャンへの「芸術としての愛」を示していると考えられます。その「愛」がつまった「ひまわり」がこのひまわり4です。
さらに、ゴッホは、意味を与えたい場所に「ヴィンセント」のサインを入れたともいわれています。
このひまわりには、花瓶の中の黄色い部分にサインが描かれています。
黄色は、ゴッホにとって「生命の色」であり、特別な色です。
この部分については、
『もし、花瓶が彼の家を表わすなら、その中の向日葵の花は、単に彼の仲間への「愛情」を象徴するだけでなく、ゴッホ自身も含めてその中に住むべき仲間たちを意味している筈である』
引用―ゴッホの眼―
という解釈がされています。
つまり、ゴーギャンや弟テオと一緒にアルルで活動していきたいというゴッホの夢「南仏のアトリエ」について、希望を膨らませていたことを暗示しているというわけです。
ゴッホは、親密な愛、安堵できる場、自分の居場所を探していました。
これまで、人間関係も、仕事もうまくいかず、ようやく見つけた画家という道。
画家の仲間とアトリエをつくりたい!
ゴッホは、自分の居場所をようやく見つけた!と思ったのではないでしょうか。
ゴッホにとって、「生命」を意味する黄色一色で描かれた絵には、モチーフの意味合いの強さからも、
どれだけの夢と希望が溢れていたのだろうかと思えます。きっと一番幸せなときだった。
この絵からは、子供のように、何も疑うことのない無邪気な喜びを感じずにはいられません。
そんな純粋な気持ちを感じるこの絵が、とても好きです。
ゴッホにとって、この「ひまわり」は、「ゴッホにとってのユートピア」を詰め込んだ作品だったのかもしれません。
*
いかがでしたか?
実は、わたしも「ひまわり」が7枚もあるとは知りませんでした。
こう見てみると、「ひまわり」の連作は、ゴッホの画家人生の成長の軌跡にもみえてくるように思います。
このように、描かれた背景を知ると、すべての「ひまわり」を実際に観たいと強く思うのではないでしょうか?
私も実際の作品を鑑賞して、ゴッホのその強さ、探求心、好奇心というエネルギーを体験してみたいと思っています!
(東京のSOMPO美術館で常設されていますのでぜひご覧ください!)。
参考文献:「ゴッホのひまわり全点謎解きの旅」朽木ゆり子、「謎解きゴッホ‐見方の極意 魂のタッチ‐」西岡文彦、「近代絵画史(上)」高階秀爾、「ゴッホの眼」高階秀爾、「ゴッホとゴーギャン」木村泰司
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