ゼロアートのMickeyです。
今回は、5つのフレームワークからなる立体的美術鑑賞法の、3つ目の鑑賞の型「ストーリー分析」についてご紹介します。
前回は、「作品」を鑑賞するためのフレームワーク、「作品鑑賞チェックシート」をご紹介しました。
そして今回ご紹介するのは、「人物」を分析して鑑賞に生かすためのフレームワークです。
「ストーリー分析」を自在に操って、アーティストが生きた軌跡と奇跡を!紐解いていきましょう。
目次
アーティストの人生を物語で理解する!「ストーリー分析」とは?
当たり前のことですが、作品は、「誰か(アーティスト)」が描いています。
そう考えると美術作品は、アーティストの人生を知らなければ読み解くことができない、といえます。
では、どうやって人生を見ていけばよいのか?
これを可能にするのが「ストーリー分析」という見方。
アーティストの人生を、ストーリー(物語)に沿って分析的に、楽しんで、見ていくフレームワークです。
人生というのは、ある意味「物語」だといえいます。
そして「人間の生きざま」は、「ストーリー的」「物語的」に見ていくと、人々の記憶に残りやすいものです。
それならば、
・アーティストの人生を物語に見立てて、その人生をインプットしていけばよいのではないか、
・ストーリーに沿って、自分なりに、実際にアーティストを分析していくのが良いだろう、
と考えた結果うまれたのが、この「ストーリー分析」です。
実際には、このようなシートを使用して、分析します。
この「ストーリー分析」には、ベースとなる「型」があります。
ジョーゼフ・キャンベルさんという方が作った、ヒーローズジャーニー(英雄の旅)という「物語の型」です。
このヒーローズジャーニーは、とても優れモノで、
この「型」に沿って物語を作れば、いつの時代のどんな人でも必ず感動させることができる、と言われています。
実際、ジョージルーカスの「スターウォーズ」や、ロード・オブ・ザ・リングなどの映画にも、この「型」が使われているそうです。
その「ヒーローズジャーニー」は、7つのステップで構成されます。(諸説あります)
「天命」によって旅が始まり、そこから5つのステップを経て、最後には「故郷へ帰る」のです。
このヒーローズジャーニー(物語の型)をカスタマイズしたのが、「ストーリー分析」です。
アーティストの人生を物語的に紐解いて、鑑賞に生かせるよう工夫しています。
具体的には、
Step1.どうやってアーティストとしての人生が始まった?
Step2.どんな出会いがあった?
Step3.人生最大の試練は?
Step4.その結果、どうなった?
Step5.結局、彼(彼女)の使命はなんだった?
といった問いに対して答えていきながら、その人生を明らかにしていきます。
ひとりの人間の生きた軌跡を、この5つのステップにきれいに整理するのは難しい場合もあるでしょう。
ですが、きれいに仕分ける必要はありません。
大切なのは、ひとつひとつの問いに対して答えを探していく過程を通じ、アーティスト自身への理解を深めていくことです。
歴史に名を残したアーティストは、波乱万丈の人生を経験していることが多いようです。
激しい人生を生きることで、そのエネルギーを美術作品に投影していく・・・。
それが、アーティストとして生きるということ、なのだと感じます。
それでは1つずつみていきます。
Step1.どうやってアーティストとしての人生が始まった?
最初にみていくのは、アーティストになったきっかけです。
どのようにしてアーティストの道を歩み始めたのか、「旅の始まり」を捉えていきます。
例えば年表などを参考に、
この人は「こういうきっかけでアーティストとしての人生をスタートしたんだな」と感じた出来事を、書き出します。
美術との出逢いはどんなものだったのか、どうしてアーティストになる道を選んだのか、など見ていくとよいでしょう。
自らの強い意志で「なりたい」と選択する人もいれば、代々続いた家業を、当たり前のこととして継ぐ人もいます。
友人に誘われてなんとなく踏み入った人もいれば、生きるためにそうするしかなかった人も、恐らくいることでしょう・・・。
Step2.どんな出会いがあった?
アーティストを志して歩む道のりには、様々な人との出会いがあります。
その中でも特に、アーティストに「大きな影響を与えた出会い」を中心に書き出しましょう。
「アーティスト」という、大きいけれど少しぼんやりとした目標が、
「○○のアーティスト」という明確な輪郭を持ったものに変わるような出会いです。
主に「師匠・メンター」、そして「仲間(ライバルや友人など)」との出会いについて、意識的に捉えてみてください。
なぜなら、メンターのような存在や、師匠と呼ぶような人との出会いは、人生に与える影響が大きいからです。
アーティストを支え励ますと同時に、アーティストが進むべき方向性を明確にしていく際のキーパーソンになります。
また、アーティストにとって仲間は、描く力や技術を向上させるために欠かせない存在です。
共に切磋琢磨するライバルあってこそ、成長や進化は加速するのです。
そして出会いは、作品を紐解くカギのひとつ、にもなります。
なぜならアーティストは、人生における様々な出会いで得たものを全て、自己表現へと昇華させていくからです。
人生の転機になるような出会いがあれば、書き出しておくとよいでしょう。
Step3.人生最大の試練は?
ここでは、「人生最大の試練」がどんなものだったのか、を捉えていきます。
ヒーローズジャーニーでは、試練という名の「人生の道行を阻む壁」のことを「悪魔」と呼びます。
自ら選択した道を歩み進めて成長すると、人は必ずと言っていいほど「試練」に直面します。
そして人(アーティスト)は、その試練をどう乗り越えていくのか、を問われるのです。
画家やアーティストの人生には、とかく「大きな試練」がつきもののようです。
例えば歴史に名を残したアーティストの多くは、「批判を受ける」という試練を経験しています。
見方を変えれば「批判」は、アーティストの才能が広く人の目に触れるようになった証ともいえます。
要するに時代を先取りしすぎた結果、「新しい表現が世間に受け入れられず激しく非難」されてしまうわけです。
それ以外の試練の代表格をあげるとしたら、
最愛の人の死や自身の健康問題、そして経済的困窮や人間関係のもつれなどになるでしょう。
慣れるまでは、これが最大の試練だ!と決めることが、なかなかに難しいかもしれません。
まずは「試練」と映るものを書き出し、その中から「後の画家人生の転機となったもの」や「作風の変容に影響を与えたもの」などを選んでみてください。繰り返すと、次第に「これだ!」と見つけられるようになります。
Step4.その結果、どうなった?
ここでは、アーティストが、人生に現れた試練を「どうやって乗り越えたのか」を捉えます。
試練を経て、「自分自身を、そして作品をどのように変容させたのか」を書きだしていくとよいでしょう。
人は試練に直面すると、悩み考え、試行錯誤した先に次の選択をしていきます。
そうして人の数だけ、ドラマがうまれます。
乗り越えることを諦めて挫折する人もいれば、別の道へと踏み出す人もいるでしょう。
ですが、ここを踏ん張って、その経験を活かして大きく飛躍できるのが、歴史に名を残したアーティストたちです。
例えば「革新を興した英雄」や、後進たちの「ロールモデル」という存在になっていくわけです。
Step5.結局、彼(彼女)の使命はなんだった?
そして最後に、アーティストの人生を総括します。
「どんな使命を持ってこの世に生をうけたのか?」という大きな問いを立てて人生を紐解いていくと、
アーティストの「役割」を理解したり、アーテイスト自身をより深く知ることができるようになります。
全体的に振り返ってみて、彼の、彼女の使命はなんだったんだろう?と考え、書き出してみてください。
アーティストが、存命中にその役割を認められたり、存在意義を評価された例は、そう多くありません。
当時の時代背景などに想いを馳せつつ、現世から振り返って見るからこそ、その「使命」を掴むことができます。
ここではアーティストとしての使命を捉えたいので、「美術界に与えた影響やそのインパクト」などを中心に考えてみましょう。
例えば、「後世の芸術家たちに理想像を示した」「権威(古典芸術)から自由になった」「20世紀アートへの橋渡し役を担った」というようなことが、該当します。
「ストーリー分析」の実践:印象派の巨匠「クロード・モネ」
それではここで、印象派の巨匠「クロード・モネ」を例に完成させた、ストーリー分析シートをご紹介します。
これはわたしの整理なので、あくまでも参考情報としてご覧いただだけたらと思います。
なぜなら、ご自身なりに想いを馳せながら色々な視点で情報を抜き出し、ご自身らしく捉えていくことによってこそ、アーティストの人生に対する見方が深まっていくからです。
ぜひご自身のお気に入りのアーティストを題材に、実践してみてください。
【参考情報】クロード・モネの人生については、こちらで詳しく解説しています
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ストーリー分析を使って人生を物語的に読み解いていくと、頭の中にアーティストの人生を思い描き易くなります。
それをイメージした状態で作品を見ると、「人生と作品の関係性」がわかってきます。
また、ストーリー分析を深めると、生い立ちや性格などの「内面的動機」が理解できるようになります。
それによって、「なぜその作品が制作されたのか」という問いまで、紐解けるようになっていきます。
そして、アーテイストの人生を知ることは、作品に投影されたアーテイスト自身をみることと等しい。
これもまた、ストーリー分析の「醍醐味」です。
要するに、「ストーリー分析を深めると美術鑑賞も深まる」ということです。
そして、この「ストーリー分析」が自在にできるようになると、
アーティストの生きた軌跡から「人生を生きるヒント」を得ることまで、できるようになっていきます。
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いかがでしたか?
モネは、自分の好きなことを生業とし、終生印象主義を貫き通しました。
そして生涯、セーヌ川沿いの水辺の風景、水面に映る陽の光の効果、その一瞬の印象を描き続けました。
またモネは、友人や家族だけでなく、仲間をとても大切にする人でした。
自由奔放に嫌なことからは逃げ、他人に甘えて暮らしていたようにも見えるモネですが、
様々な出会いと幸運に助けられながら、時に苦しみ抜きながら、それでも初志貫徹で、信念を貫き通します。
だからこそ存命中に、印象派の巨匠の使命を全うできたのだと感じます。
そしてその生きざまが、ありようが、モネの作品からは溢れ出ている!そんな風に、わたしは感じます。
さて、前回と今回の2回で、「作品」「人」という比較的狭い見方、ミクロな分析をしてきました。
この後は少し大きな見方、マクロな分析に入ります。
ということで、次回は4つ目のフレームワーク「3K」についてご紹介します。
アーティストが生き、作品がうまれた当時の「美術業界」を見ていく見方です。お楽しみに!
参考文献:「論理的美術鑑賞法」堀越啓