こんにちは!ゼロアートのMickeyです。
今回は、紀元前6世紀頃に生まれたギリシャ美術について紹介していきます。
ギリシャ美術は一言で表すと
「美術様式のお手本」です。
美術史で使われる「古典的~」というフレーズは、凡そ古代ギリシャ美術の事を指すと言われており、私たちが美術に触れる時の基盤となっています。
ギリシャ美術は、建築や陶芸なども有名ですが、今回は彫刻を取り上げます。ギリシャ彫刻は、理想的な人体美を追求したものです。今でも「ギリシャ彫刻のような美しさ」というフレーズは、最上級の褒め言葉です。
目次
1、ギリシャ美術の特徴を3P分析で読み解く!
◇Period (When ?)
紀元前650年から、アルカイック期(前650年頃)、クラシック期(前480年頃)、ヘレニズム期(前340年頃)の3つの時代に分けられる。
◇Place (Where ?)
ギリシャ本土、アテネ
◇People (Who?)
・ポリュクレイトス
『ドリュポーロス(槍を持つ人)』
・プラクシテレス『クニドスのアフロディーテ』
・ミュロン『円盤投げ』
ギリシャ彫刻の中で、有名な3点と取り上げていますが、これらの作品の他にも、作者不明の素晴らしい彫刻が数多く残されています。
(それらの作品については、第3章で詳しく説明します)
次は、どのような時代背景から、これらの芸術作品が生み出されたのかを読み解きます。
2、ギリシャ美術の時代背景とは?A-PEST分析で読み解く!
【1】Politics:政治的背景
・直接民主政治
ギリシャでは、紀元前6世紀末までに、市民が主体的に政治に関与する権利を持った直接民主政治が確立されました。このことで、経済や文化の発展が進みます。
しかし、実際には私たちがイメージする民主主義とは違い、
・選挙権の所有が許されたのは、富裕層の全成人男性のみ
・非人道的な奴隷を使った交易による海運商売の発展
により栄えた文化で、不平等な社会構造でした。
紀元前430年から426年には、ギリシャの都市アテネの人口3分の1もの人が死んだアテナイの疫病があり、政治不信も重なりギリシャ文明は滅びる事になります。
【2】Economy:経済的背景
・交易産業の発達による、文明の発達
ギリシャ文明は一旦滅びますが、再び復興します。その要因として、乾燥した東地中海地域に位置していたギリシャ本土では、農作物が育たないため、他国から食物を輸入しなければならず、交易産業が発展していくのです。
その経済発展と共にギリシャ文明が広がり始め人口も増加し、力を持ったギリシャ人たちは、豊かな島のイタリア南部やシチリアを初め、北アフリカやスペインにまで勢力範囲を広げ、最終的には地中海全体を植民地化します。その土地の人々を奴隷としたことで、時間的余裕が出来た富裕層は、文化芸術へと目を向けるようになるのです。
【3】Society:社会的背景
・文字の誕生
ギリシャ経済の発展に伴い、コミュニケーションツールとしてアルファベットが発案され、文字の原型を生みました。
・現代にも引き継がれる哲学
生活にゆとりがでた富裕層は、文学、演劇、スポーツに親しみ、現在まで続くスポーツの祭典であるオリンピックの原型が生まれました。
更に、プラトン、アリストテレス、ソクラテスなどの哲学者が生まれます。
彼らは、人生、自然、宇宙の存在とは何かといった「万物の根源」を考え、その哲学は現代に引き継がれ、多くの哲学者に影響を与えています。
【4】Technology;技術革新
・水車や風車など力学的エネルギー革命
水車や風車など、自然の力で物を動かす技術が発明されました。この発明で農作業の効率が上がり、経済活動の発展を支えました。
・工学者ヘロンによる蒸気機関と自動販売機の発明
工学者であり数学者のアレクサンドリアは、「アイオロスの球」と呼ばれる初の蒸気機関を発明しています。イギリスで起きた産業革命の、実に2000年前の出来事です。
神の存在を見せる見世物として扱われ、蒸気機関車としては使われていませんが、画期的な技術革新が起きていたのです。さらに、硬貨を入れると聖水が出る仕組みの自動販売機も発明されています。
【Art:美術様式】
アートに関しては、ギリシャの政治体系、直接民主政がポイントとなります。
政治の重大な決定権を市民が担っていた事から、一人一人が、優良な賢い市民、つまり理想的な精神を持った人間であることが求められました。
内面だけではなく、外見にも理想を求めたことで、身体美が追求されるのです。
精神的にも肉体的にも優れた理想像を追求したのがギリシャ彫刻の背景にあります。
ギリシャ時代を構成するアルカイック期、クラシック期、ヘレニズム期の3つの時代で、ギリシャ彫刻も変化して行くのです。
3、ギリシャ美術の代表的な作品を三つの時代に分けて解説!
アルカイック時代―前650年頃―
直立する人体像が多く残されている古代エジプト彫刻から影響を受けながら、ポーズの変化、表情など、理想的な人体像を追求する為の技法が発達していきました。
『クロイソスのクーロス』紀元前530年頃、大理石、アテネ国立考古学博物館
戦死したクロイソスという若い戦士の死を痛み、奉納のために作られた男性土俵像(クーロスは、ギリシャ語で男性という意味を示す)は、墓の目印とされていました。
「立ち止まり、亡きクロイソスの墓前で嘆き悲しんでやってくれ、戦場の最前線で、荒ぶる軍神アレスに打倒された彼を」
という詩が残されていたこの彫刻は、アルカイック期を代表する彫刻作品として知られています。
・実際の人間に近い筋肉を付けた人体表現
・直立しているのではなく、一歩踏み出したプロポーション
・口角を上げささやかに微笑む表情は、アルカイックスマイルと呼ばれています。
人間らしさを表すため、筋肉、ポーズ、笑顔に加え、肌に近い彩色がされリアルさを追求したものでした。
『ペプロスのコレ―』紀元前530年頃、大理石、アクロポリス美術館蔵
古代ギリシャの女性が着ていた衣服であるペプロスを身にまとったコレ―(ギリシャ語で娘)を表した女性像も作られています。
アルカイックスマイルは先ほど紹介したクーロス像と同じ表情ですが、一歩踏み出した姿勢ではなく、足を揃えた状態である事。さらに、裸体の肖像では無く、着衣で人体の美しさを表現しています。
クラシック期―前480年頃―
紀元前400年にアテネは、ペルシャからの襲撃で、アルカイック期の彫刻が置かれていた多くの神殿が壊されました。その後、傷跡から立ち上がり、新しい人体美が生まれます。それは、解剖学的な追及が進み、身体にバランス感と生命感が増した彫刻となりました。
ポリュクレイトス『槍を担ぐ人』紀元前440年頃、大理石、ナポリ国立考古博物館蔵
アルカイック期の彫刻に比べると、笑顔が消え、直立の姿勢から片方の足に重点を置いた歪んだ姿勢へと変化して行きます。
この姿勢こそが、理想的な人体比を表すと言われ、片足に重点を置き、腰を上げる形は、芸術の基本とされる体系となり、コントラポストと呼ばれています。
この作品を制作したポリュクレイトスは[アルカイックの直立した像+クラシックのダイナミックな古典的な素材]の二つをミックスさせ、一人の人間のポーズの調和を表すことに成功させたと言われており、この作品は美しい男性像の手本として知られています。
さらに、身体の各部分が均等に描かれていることで理想的な人体の構造が作られると言われています。ポリュクレイトスは、後世の彫刻家の手本となる理論書「カノン(規範)」を執筆し、後の彫刻家たちに多大な影響を与えたことでも知られています。
プラクシテス『クニドスのアフロディーテ』原作紀元前350~340年頃、大理石、ローマ国立博物館蔵
それまでの女性像は、衣服の表現を重要視していましたが、彫刻家プラクシテレスは、ヌードの女像クニドスのアフロディーテを制作。官能的な裸体で注目を集めました。
この作品は、愛と美の女神を題材に制作されており、オリジナルは失われていますが、沢山のコピー作品が残されている有名な作品です。
オリジナル作品を称して「しっとりと濡れた目が喜びと歓迎を示していた」と賛美する文献が残されており、実物は彩色され、生きているような美しさだったと言われています。
クニドスのアフロディーテは、円形神殿に置かれ、どの方角からも見ることが可能だったこともあり、多くの人の目に触れる機会があり、その存在は、人々を引きつけ、遠方からこの女性像を鑑賞にやってくる人がいたほどの人気でした。
ヘレニズム期―前340年頃―
クラシック期の彫刻は、理想的な身体美を追求しましたが、ヘレニズム期は、感情表現を含むドラマチックな彫刻が増えていきます。
『サモトラケのニケ』紀元前190年頃、大理石、ルーブル美術館
サモトラケのニケは、紀元前190年頃、ギリシャにあるロードス島の人々が、シリアとの戦いで勝利したことを、勝利の女神ニケ(ニーケー)に感謝して立てた像と推定されています。
不明なことが多い彫刻ですが、勝利の女神であるニケが、強い海の風の中で着地する瞬間を切り取った様子をドラマチックに表現する力強い彫刻は存在感があります。
・浮き出たへそ、体を前のめりにしている身体像は、躍動感を表現
・翼を広げて着地する様子は、鷲や鷹にある翼を見て作られた高い観察力
を見てとることが出来、高い技術力が評価され、頭部と両腕は失われていますが、ギリシャ彫刻の傑作と言われています。
『ミロのヴィーナス』 紀元前100年頃、大理石、ルーブル美術館
歴史ある彫刻作品は、頭部が残っているものは皆無であり、外れやすい首と頭部がオリジナルで残っているミロのヴィーナスは、その貴重性で多くの人の心を捉えています。
ヘレニズム彫刻の特徴である歪みのある身体に対して、無表情な顔つきはクラシック期の彫刻の要素を見ることが出来ます。
唯一無二な存在価値、人間とほぼ同じ大きさのダイナミックさで、ミロのヴィーナスはギリシャ彫刻の中で最も有名な彫刻として知られています。
以上がギリシャ美術の3P、時代背景を読み解くA-PEST 分析、そして代表的な彫刻作品についての紹介でした。
現代に引き継がれる科学や哲学も発展したギリシャ時代の中で生まれた美術は、今も基本とされる美のあり方を築き上げました。ルーブル美術館には、ニケもヴィーナスもあるので、私もいつかその美を体感してみたいと思います。
次回は、古代ローマ美術について紹介します!
【参考文献】
・高階秀爾、三浦篤編『西洋美術史ハンドブック』新書館、1997年
・小佐野重利、小池寿子、三浦篤編『西洋美術の歴史1~6』中央公論美術出版 2016-17年
・高階秀爾監修『西洋絵画の歴史1~2』小学館、2013-16年
・早坂優子編集 株式会社視覚デザイン研究所『鑑賞の為の西洋美術史入門』2018年
・エルンスト・H・ゴンブリッチ編集 株式会社河出書房新社『美術の物語』2020年
・ジョン・キャンプ、エリザベス・フィッシャー著 東京都書籍株式会社『図説 古代ギリシヤ』2004年
【参考サイト】
・文字の歴史
https://neverending.school/posts/history-of-letter/
(2020年6月2日)
・人類初のガジェット!? 古代ギリシャから蘇った「ヘロンの蒸気機関」
https://wired.jp/2012/06/22/aeolipile/
(2020年6月4日参照)
・歴史上の数学者たち
https://historicalmathematicians.blogspot.com/2012/02/blog-post_18.html
(2020年6月4日参照)