こんにちは。ゼロアートのMickeyです!
今回は、古代ローマ美術の彫刻作品について解説していきます。
ギリシャ美術では、理想的な人体美を追求する完璧な体型を重視していましたが、ローマ
美術は、モデルとなる人物が残した功績からイメージを膨らませ、人の内面を表現しよう
とした肖像彫刻が多く作られました。
そのローマの美術を一言で表すと
「物語のある肖像彫刻」
と表現できるでしょう。
では早速、ローマ美術の概要をご説明していきます。
目次
1、ローマ美術を3つのPから解説!
◇Period (When?)
紀元前500年から約1000年の間で起きた芸術
◇Place (Where?)
イタリア、ローマ
◇Pieces(What?)
・トラヤヌス記念註
・プリマポルタのアウグストゥス立像
・マルクス・アウレリウス邸の騎馬像
・コンスタンティヌスの肖像
以上が、簡単な古代ローマ美術の骨組みです。
次はその時代背景について詳しく見ていきましょう。
2、A-PEST 分析で、ローマ美術の時代背景を説明
【1】Politics:政治的背景
エリートによる共和政治
ローマには、先住民族の一つであるエトルニア人が暮らし、独特の文明を築いていました。
しかし、ローマ人がこれを奪い、貴族によるエリート政治を始めます。
「財産を持つ男性は、兵役につくことで政治への参加を許される」と定め、軍事力を
強化していきました。
ユリアス・カエサルの暗殺から養子であるアウグストゥスの繁栄
ローマは、貴族政治の元で、領土拡大を進めて行きますが、次第に政治の基盤が崩壊。貧富の差が広がり国民の不満が高まっていきました。
ここで、ヒーローが登場します。それが、貴族出身でありながら庶民の気持ちに寄り添うことで人気のあったユリアス・カエサルでした。
しかし、ワンマン政治を始め、それに反感を持つ人物に暗殺されてしまいます。
この暗殺される場面は、シェークスピアの「ジュリアス・シーザー」に描かれています。
かの有名な言葉「ブルータス、おまえもか…。」でよく知られているかと思います。
彼の政治生命は2年と短いものでしたが、その後、カエサルの養子であるアウグストゥスが暗殺者を倒し、初代ローマ皇帝となって栄華を誇ります。
【2】Economics:経済的背景
兵役の強化による領土の拡大
兵役を強化し、領土を拡大して行ったローマは、紀元前3世紀中頃から2世紀前半にかけて、ポエニ戦争という大きな戦いを繰り返しました。
そして、地中海に面するカルタゴを占領。交易に最適な場を手中に収めます。
これ以降、紀元前1世紀までに地中海を支配する強国になっていった結果、経済が発展していきました。
【3】Society:社会的背景
ヴェスヴィオ山の噴火
西暦79年、イタリア半島にあったポンペイが火山の噴火により崩壊し、約2000人の命が奪われ、街が壊滅します。
町の建造物は灰に埋まっていましたが、1748年に、ポンペイ遺跡が発掘されます。内装壁画がいくつか発見され、その中でも『ポムペイ遺跡の壁画ディオニュソスの秘儀』は、保存状態が良く鮮やかな赤色の壁画で、「ポンペイの赤」と呼ばれています。この発見は、後の新古典主義美術に多大な影響を与えることになります。
[ポムペイ遺跡の壁画ディオニュソスの秘儀]
西洋教育の原点
ローマ帝政が始まると、教育が発達していきました。
学校や私塾が生まれ、教師という立場に価値が見出されるようになり、
現代に伝わる教育スタイルの原点が作られました。
アルファベットやラテン語など、文字文化も生まれ発展しました。
【4】Technology:科学技術
インフラの発達
土木工事の技術が進み、上下水道が完備、道路工事も進み、街道が作られインフラが整いました。更に劇場などの娯楽施設も建設され、巨大国家の基盤が敷かれます。
その建造物の多くには、モルタルという建築材料が使われています。これは、石灰岩が含まれる「ローマンコンクリート」と呼ばれ、現代のコンクリートの2倍もの強度があることが分かっています。
ローマンコンクリートを使い、パンテオンや、コロッセウムといったスケールの大きい建
造物が多く建てられ、完璧な形ではありませんが、現代もその姿を留めており、観光客の人気を集めています。
[パンテオン] [コロッセウム]
【5】Art : 美術様式
ローマ美術は、ギリシャ文化の影響を色濃く受け、ローマンコピーと呼ばれるギリシャの美術品の影響を受けた彫刻作品が多いことが特徴です。
一方で、ギリシャ彫刻の影響を受けながらも、作品のモデルとなる人物の功績、役職、人間性を考え、リアリティを追求しており、この点においてギリシャ美術と異なります。
また、記念碑には、物語を想像させる神秘さを加味するようになります。
こういった美術様式の特徴を、有名なローマの彫刻作品を見ながら、さらに深くご紹介していきたいと思います。
3、ローマ美術の有名な4つの彫刻作品とは?
①『トラヤヌス記念柱』107-113年頃、ローマ、イタリア
ローマ皇帝トラヤヌスが、ダキアという国に遠征し、勝利を収めた功績を称えてつくられたものです。
200メートルの円柱に、戦いの様子を叙事詩的に浮彫細工(リリーフ)でリボンのように
螺旋状に描いています。トラヤヌス皇帝の偉業を讃えるための墓でもありました。
②『プリマポルタのアウグストゥス立像』
紀元前28年頃、大理石、ヴァチカン美術館蔵
ローマ初代皇帝となったアウグストゥスの肖像彫刻で、ギリシャの征服者としての栄光を表しています。150体もの複製彫刻が権威を知らしめるために作られ、彫刻の存在価値を変えたことでも有名な作品です。
細かな装飾が施された伝統的な甲冑をまとい、人々に呼び掛けている様子を制作しました。
足元にはイルカに乗った「クピト」と呼ばれる天使がいます。実は、この天使には様々な意味が含まれています;
- 足元が細いため壊れないように補強するため
- 人物のプロポーションを整えるため
- クピトは神に通じる天使であり、アウグストゥスも神々に通ずる人間であることを暗示
- カエサルが倒されたのは「アクティウム」という海を連想させる場所だったことから、海に住むイルカを置くことで、アウグストゥスがカエサルの暗殺者を倒したことを想起。
など、多くの意味が隠され、アウグストゥスの栄光を称える工夫が熟されているのです。
このように、権威のある作品だった為、彫刻の前で暴言を吐くなどといった悪行を働くと、罪に問われるほどでした。
そして、更に特筆すべきは、この彫刻は、「従来のローマ彫刻の常識を変えた作品」だったという点です。
それまでの彫刻作品のモチーフは、地位や経験があり尊敬される「年老いた老人」が中心でした。
この彫刻のように、皺も目立ち、目も弛んだ老人のリアルな容姿を表現することが当たり前でした。
しかし、この「当たり前」に対して新しい風を吹き込んだのが、このアウグストゥスの立像です。アウグストゥスは、30代前半に若くしてローマ皇帝になった青年です。これまでの老人彫刻とは一線を画したのです。
これにより、彫刻制作の新たな形を提示することにつながりました。
③『マルクス・アウレリウス邸の騎馬像』
176年、ブロンズ、コンセルヴァトーリ宮殿、ローマ
大型のブロンズの騎馬像です。
哲学にも精通したマルクスという人物が、将軍として闘いで敵に勝ち、民衆に挨拶をしている様子を表しています。馬が野蛮人に足を乗せている様子を表し、圧倒的な勝利を印象づけている彫刻として知られています。
④『コンスタンティヌスの肖像』
4世紀前半ごろ、大理石、コンセルヴァトーリ宮、ローマ
キリスト教を広めたローマ皇帝として知られるコンスタンティヌスの肖像です。
2.4メートルもある頭、全体では約10メートルもあるスケールの大きな肖像で、遠くを見つめる視線、顎や額の皺などリアルな造形が特徴的です。
コンスタンティヌスという人物が、どのような見た目だったかということよりも、禁じられていたキリスト教を信じることを許した「神格的な存在としての皇帝」という印象を強く与える役割があったとされます。
過剰なほど大きな目が印象的で、強い意志と優しさを感じる不思議で神秘的なコンスタンティスの像は、私がローマ彫刻の中で一番気になっている作品の一つでもあります。
*
以上、ローマ美術についての紹介でした!いかがだったでしょうか。
作品の外見的な美しさだけでなく、内面の世界を表現しようとしたローマ彫刻は奥が深いですね。
いつか、本場のイタリア、ローマに訪れて、本物の作品をみたいと思っています。
【参考文献】
・高階秀爾、三浦篤編『西洋美術史ハンドブック』新書館、1997年
・小佐野重利、小池寿子、三浦篤編『西洋美術の歴史1~6』中央公論美術出版、2016-17年
・高階秀爾監修『西洋絵画の歴史1~2』小学館、2013-16年
・早坂優子編集 株式会社視覚デザイン研究所『鑑賞の為の西洋美術史入門』、2018年
・エルンスト・H・ゴンブリッチ編集 株式会社河出書房新社『美術の物語』2020年
・本村凌二、清水卓智『教養としての「ローマ史」の読み方』PHP研究所 2018年
【参考サイト】
古代ローマの歴史
https://rome.europa-japan.com/rome_society/
(7月2日参照)
世界史の窓
https://www.y-history.net/appendix/wh0103-025.html
(6月31日参照)
ローマンコンクリート WIRED
https://wired.jp/2017/02/18/cement-stronger-molecules/