こんにちは! ZEROアートのMickeyです。
キリスト教は、神の子であるイエス・キリストが、「この世界に神は一人しかいない。ローマ人が崇める多くの神々は偽物。故に、この唯一の本当の神を信仰するべきだ」と唱えた教えです。この信仰は、貧富の格差が大きくなったことで困窮していた貧しい人々にとって救いの対象となり、急激にローマに広まって行きました。
しかし、ローマ皇帝がキリスト教を奨励するまで、自由に宗教を信じる事は禁じられていました。
そのため多くの信者が隠れて信教していた痕跡が残っています。
その後、キリスト教が認められてからは、後世に残る教会が次々と建設されていくことになります。
この事から初期キリスト教美術は、
「隠れキリシタンの宗教壁画」
「様々な教会建築の誕生」
この2つの時代で構成されています。
では最初に、この美術様式の押さえておくべき基本的な時代、場所、作品を、ざっと見ていきます。
※2020年7月15日に公開した記事ですが、必要な文言等を追記、その他の部分も修正して2020年9月6日に再度公開しました。
目次
1、初期キリスト教美術を3つのPから解説
◇Period (When?)
2世紀頃~5世紀後半
◇Place(Where?)
イタリアのローマ
◇Pieces (What ?)
・善き羊飼い
・カタコンベ
・ガッラ・プラキディア廟内部装飾
・サンタ・マリア・マッジョーレ聖堂
以上が、初期キリスト教美術の押さえておくべき、大まかな3つのポイントです。
次の章からは、どのような時代背景の元に芸術が生まれたのかを説明していきます。
2、初期キリスト教美術の時代背景は?A-PEST、4つのポイントから分析!
【1】政治的背景:Politics
ローマ帝国のキリスト教徒迫害
3世紀のローマ帝国は、皇帝を絶対君主として讃える国家体制が成り立っていました。
その為、キリスト教の「唯一の神を信じる」という教えは、ローマ皇帝ではない者を信じる、都合の悪い反社会的な存在として警戒されるようになりました。
そして国家は、313年頃まで徹底的にキリスト教を排除しようと、キリスト教信者を迫害し、厳しい罰を与えるようになりました。
キリスト教信者にとっては、恐ろしい時代であったことは、間違いありません…。
コンスタンティヌス皇帝によるミラノ勅令
キリスト教迫害の時代にヒーローが現れます。それが、キリスト教を広めた第一人者とされるコンスタンティヌスです。
彼は312年に行われた、西ローマ帝国の座を争うミルウィヌス橋の戦いに勝利し、西正帝の座を手に入れました。
コンスタンティヌスは、東のローマ皇帝のリキニウスと相談し、宗教の自由を認めるミラノ勅令を313年に出します。弾圧されていたキリスト教をローマ全土で自由に信仰できるようにしたのです。
【2】経済的背景:Economics
東と西ローマでの経済格差の拡大
東と西に分断されていたローマの経済状況は混乱状態でした。
東ローマ帝国はビザンツ帝国と呼ばれ、国家政府が政治を統治する権利を持つ中央集権国家として経済力を強めていき、ローマ全体を制圧しようとしていました。
一方、西ローマ帝国では、コンスタンティヌス皇帝に次ぐ強い権力者が現れず経済力は衰退していきます。
このように、当時のローマには二つの国があり、経済の格差が大きく、人々の生活は不安定になっていきました。この中で、人々は神に救いを求め、キリスト教は庶民の間で普及していったのです。
【3】社会的背景:Society
カタコンベ(地下墓所)の中での集会
キリスト教が弾圧をされていた時期、信者たちは、死者が眠るカタコンベ(地下墓所)で礼拝をしていたとされます。
この墓所には手を上げ、祈りを捧げている人達の壁画が描かれ、初期キリスト教美術を象徴しています。
しかし信者たちは、一目でキリストだと分かる絵は描かずに、キリスト教を連想させる中心的な思想・思いが表れた聖書の逸話などをモチーフとして描き、隠れて信仰を続けました。
このキリスト教が認められない時代をカタコンベ時代と言います。
[カタコンベの内部]
【4】技術革新:Technology
教会建築の誕生
キリスト教が公認されてから、教会勝利の時代が始まり、後世に残る教会が建てられ始めました。キリスト教信者の集合の場として、神の神秘性を表す教会を建設するための技術がどんどん磨かれていきました。
コンスタンティヌス皇帝は、ローマの中心地に、カトリックの総本山ともいえる旧サンピエトロ大聖堂(ペテロのお墓)を建設します。
当時の主流な建築様式として、以下の2つがありました。
[バシリカ式教会]
教会建築で最も基本的な形とされる建築様式を確立したとして知られています。入口からまっすぐ伸びた動線の奥に聖なる祭壇が際立つ長方形の構造は、中世の教会まで引き継がれるスタンダードな形となりました。多目的ホールや集会場のような機能も併せ持ちます。
サンタ・マリア・マッジョレ-ネ聖堂
[集中式教会]
建物の中心に重きが置かれた集中式教会も重要な建築様式として誕生しました。
建物内部の中心部には、日光が差し込むように作られています。外光が集まった中心部に神が居るかのような神秘的な空間を演出したのです。
サンタ・コスタンツァ聖堂
【Art:美術様式】
初期キリスト教美術は、東西のローマ分断の不安定な政情の中、キリスト教が認められないカタコンベの時代と、認められた教会勝利の時代に分けられます。
2つの時代に生まれた美術の特徴をまとめると以下のようになります。
・【カタコンベの時代】・・・ローマ帝国がキリスト教を禁止していた時代
ローマ帝国によってキリスト教を禁じられていた事から、信者たちは、人目を避けて信仰する必要がありました。その為、カタコンベ(地下墓地)に隠れ、キリストを想像させるモチーフ(モノグラム)を用いて壁画を描き、祈りを捧げました。
・【教会勝利の時代】・・・皇帝コンスタンティヌスが、キリスト教の信仰を許すミラノ勅令を出した後の時代
キリスト教弾圧が無くなると、大々的に教会の建設や、新約聖書・旧約聖書の場面を、簡潔に分かりやすく表した装飾画の制作が行われるようになりました。
モザイク装飾という、ガラスや宝石のかけらを集めて出来る装飾画で、教会の中の空間を華やかに彩りました。
以上のように、カタコンベの時代では、信仰していることが分からないような工夫から暗号のような絵画が生まれ、教会勝利の時代では、煌びやかな装飾で神に信仰する文化が生まれました。
それでは、次の章から具体的な初期キリスト教美術の作品を例に挙げながら、詳しく見ていきます!
3、知っておくべき初期キリスト教美術の作品!
≪カタコンベの時代≫
《善き羊飼い》3~4世紀、フレスコ、プリシッラのカタコンベ
イエス・キリストの「善き羊飼いは羊の為に命をも捨てる」という言葉から「羊飼いの少年」が描かれています。
自分の命を捧げ、民衆を守ったキリストの行いを表すシンボルとして相応しいとされ、宗教美術を扱う上で、幾度と無く現れるモチーフの一つとなりました。
《パンと魚》3世紀
この作品も、カタコンベに描かれているキリストをモチーフとした装飾画です。
細長い物体が、「魚」。その物体の上に載っているのが「パン」。なぜ魚とパンなのでしょうか。
・魚はギリシャ語で「イクトゥスΨάρια)」
これは、神の子、神を表すギリシャ語の頭文字を並べた語と同じ。
・パンは、聖書の中で、キリストが5000人もの人に分け与えた神聖なる食べ物として認識されている。
このような文脈から、魚とパンはキリストを表すモチーフである事が分かっており、キリスト教を表わすモノグラムとして数多く用いられてきました。
また、他のカタコンベの装飾画には、魚のイメージから漁師などに例えられることもあったそうです。
《海に投げ入れられるヨナ》3世紀、フレスコ、
サンティ・マルチェッリーノ・エ・ピエトロのカタコンベ
こちらもキリストにまつわるモチーフを描いている装飾画ですが、少し変わった特徴があります。
新約聖書の十字架にかけられたキリストが生き返る「復活」の物語を、別のストーリーを用いて表現するタイポロジー(余計論)で描かれているのです。
この作品に描かれているのは、ヨナという人物の物語。ヨナは、布教をするという神の命令に背いたことで、海の怪物に襲われます。
怪物に食べられたヨナは、命令に背いたことを深く反省し、怪物の腹の中で祈り続けます。
反省しているヨナを見た神はそれを許し、ヨナは3日後に命を取り戻します。その後、ヨナは神に感謝して熱心に布教活動をしました。
これは、キリストが十字架に掛けられた後、生き返り、布教したという新約聖書の話と重なります。
この事から、「キリストは、死んでしまうけど、もう一度生き返る」という
「復活」を連想させるモチーフであるタイポロジーが表れている事が分かっています。
≪教会勝利の時代≫
ガッラ・プラキディア廟内部装飾、ラヴェンナ
この作品は、西ローマ帝国の皇帝の娘、プラキディアの埋葬の為に作られたガッラ・プラキディア教会の内部にある、モザイク画です。
キリストを表す善き羊飼いのモチーフと、青を基調とした空を表わす文様が周りに描かれています。
モザイク画の装飾は非常に手が込んでおり、
キリストの顔の凹凸や、肌の色味を表現するため、多様な色のガラスの破片を集め作られています。
壁画とは違い、ガラスを集めて作ることで、色褪せないことから、キリストの神々しさを保つことが出来ます。
更に、ガッラ・プラキディア教会の外観は、簡素で殺風景なことから現実世界を表し、教会内部は豪華な造りで、キリストが居る天国の優雅さを表しているとされます。
[ガッラ・プラキディア霊廟の外観]
*
以上が初期キリスト教美術についての紹介でした!
いかがでしたでしょうか。
迫害に遭うリスクを負っても、キリスト教を信じ続けるその精神から生まれた美術作品からは、宗教の強い力を感じます。
次回は宗教画の要素がもっと色濃く出る、ビザンティン美術について説明します!
参考文献:
高階秀爾編集 株式会社新書館発行『西洋美術史ハンドブック』(2015)、
早坂優子編集 株式会社視覚デザイン研究所『鑑賞の為の西洋美術史入門』(2018)、
ジョン・ラウデン署 益田朋幸訳 株式会社岩波書店『初期キリスト教美術・ビザンティン美術』(2007年)
本村凌二著者 株式会社PHP研究所『教養としてのローマの読み方』(2018)
菊池栄三・菊池伸二著 株式会社教文館『キリスト教史』(2007)
船本弘殻監修 株式会社幻冬舎 『知識ゼロからの教会入門』(2015)
エルンスト・H・ゴンブリッチ編集 株式会社河出書房新社『美術の物語』(2020)