ゼロアートのMickeyです。
今日は、5つのフレームワークからなる立体的美術鑑賞法のうちの、1つ目の鑑賞の型「3P」についてご紹介します。
「3P」を自在に操って、作品をロックオン!していきましょう。
美術を読み解けるようになる!最初の型「3P」とは?
結論から言えば、3Pとは、
・Period:時代
・Place:場所
・People:人
の3つのPのことを指します。
この「3P」は、美術作品をおおざっぱに概観する時に用いると良い手法です。
作品や展覧会での鑑賞を、スムースに行う事前準備として役立ちます。
また「3P」は、情報を整理する要素である「5W1H」におきかえると、When、Where、Whoにあたります。
・Period:時代(When:いつ)
・Place:場所(Where:どこで)
・People:人(Who:だれが)
「いつ、どこで、だれが」と言い換えると、少しイメージしやすくなるのではないかと思います。
1つずつ、解説していきます。
1.Period:時代(When:いつ)
西洋は時代区分がとてもはっきりと分かれています。
それを簡略化して「古代、中世、近世、近代、現代」の5つに分けてみると以下のようになります。
① 古代:紀元前〜5世紀(西ローマ帝国滅亡まで)
② 中世:6世紀〜15世紀半ば(東ローマ帝国滅亡まで)
③ 近世:15世紀後半〜17世紀
④ 近代:18世紀〜19世紀
⑤ 現代:20世紀(特に第二次世界大戦)以降
西洋絵画は、近世(主にルネッサンス)より前の時代には、あまり発展しませんでした。
古代は絵画よりも彫刻が主流でしたし、中世には、キリスト教を表すための美術や絵画ばかりが作られました。
人間が神様を描くなど畏れ多い・・・ そんな中世を経て、近世にルネサンスが興り、本格的に美術が発展します。
そして近世に確立された古典芸術の壁を打ち破った近代美術の先に、現代アートがうまれてくるのです。
まずは、この時代区分ごとの美術の特徴をあてはめることから始めます。
そのためには、作品が描かれた時代が、この5つ時代区分のどこにあたるのかを確認することが大切です。
そして時代は、「歴史」とも言い換えられます。
時代をみることを重ねると、当時の時代背景まで考慮した作品鑑賞が、できるようになっていきます。
2.Place:場所(Where:どこで)
場所とは、作品が制作・発表された場所、そして現在収蔵されている美術館等の場所、のことを指します。
美術は、場所と密接に関連して発展してきました。
よってこの場所という要素を、意識的に捉える必要があります。
西洋美術の中心地は、時代と共に移り変わってきました。
この変遷を知っているだけでも、作品を鑑賞するときの見方が増えます。
そして、なぜ移り変わってきたのかを理解していると、美術鑑賞はよりリアルで詳細になり、奥行きがでてくるのです。
近世以降、西洋美術の中心地は、イタリア(近世)→フランス(近代)→アメリカ(現代)と変遷しています。
この変遷の要因には、例えば、宗教面の理由(カトリックvsプロテスタント)や政治、経済などの理由があげられます。
特に、文化が発展するためには経済的な基盤が不可欠で、「富があるところ」に美術の中心地は移ってきました。
経済的な後ろ盾は、文化がうまれる土壌になります。結果、その場所が、美術の中心地となっていきます。
実際イタリアもフランスもアメリカも、美術の中心地となった時代には、経済的に大きく発展していました。
文化を発展させる土壌が、整っていたのです。
イタリアやフランスは、偶像崇拝が可能なカトリックの国だったことが、美術発展を推進しました。
近世のイタリアではルネサンスが花開き、近代フランスでは、ベル・エポックと呼ばれる華やかな芸術の都がうまれました。
ではプロテスタントの国アメリカがアートの中心地になったのはなぜなのでしょうか。
戦後のアメリカは、国をあげて文化芸術の振興に力を注ぎました。経済面だけでなく文化面でもリーダーになろうとしたためです。それが大きな力となって美術が発展し、現在まで世界のアートの中心地に座し続けているのです。
3.People:人(Who:だれが)
これは、「誰が」制作したのか、ということです。あわせて生没年、何歳まで生きたのか、をみていきます。
当然ですがアートは、 「人」によって制作されます。
その作品を制作した人が、「どんな人だったのか」を把握することは、不可欠です。
作品を生み出した人物自身を理解すると、美術鑑賞の楽しみ方も変わっていきます。
人物の詳細な掘り下げは、3つ目のフレームワーク(ストーリー分析)を使って行っていきますが、
この3Pではまず、「いつ生まれ、何歳で亡くなったか」「どのくらいの人生の長さだったのか」を押さえます。
そのうえで、「その生涯は、どの時代に属し、どんな美術様式を代表しているのか」などの点を、3Pのフレームワーク全体で眺めていきます。
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3つのPのうち最も大切なのは、「People:人物」。どんなアーティストがどのような絵を描いたのかという点です。
ですが、残りの2つのPが揃わなければ、歴史に名を残す巨匠には、なれないものです。
「適切なタイミング(Period)で」「適切な場所にいる(Place)」ことではじめて、歴史に名を残す環境が整うのです。
「3P」の実践:星月夜
それでは実際に、「星月夜」という作品について、3Pを実践してみたいと思います。
まずは、要素1つずつを個別に見ていきます。
・Period(When):この作品が制作されたのは「1889年」。19世紀なので時代区分は「近代」です。
・Place(Where):制作された場所は「フランスのサン・レミ」。収蔵場所は、アメリカ・NYの「MoMA」です。
・People(Who):制作者は「フィンセント・ファン・ゴッホ」。1853年にオランダに生まれ、フランスで活躍し、1890年に37歳の若さで亡くなっています。
これらを図にすると、このようになります。
次に要素をかけ合わせながら、みていきます。
19世紀、近代に西洋美術が最も発展していた場所は、フランスです。
ゴッホはオランダでうまれますが、文化・芸術の中心地「フランス」で画家として作品を制作・発表しました。
「19世紀という時代(Period)」に、「フランスという場所(Place)」にいたということです。
そして制作者「ゴッホ(People)」の没年と、作品「星月夜」の制作年を照らし合わせるとわかることがあります。
一説には拳銃自殺したともいわれるゴッホですが、この作品は亡くなる前年に描かれています。
ここまで整理したところで、改めて「星月夜」という作品を見直してみていただけたらと思います。
「3P」で整理する前と後で、作品の見え方が変化していることに、気づいていただけるはずです。
オランダでうまれたゴッホが、芸術の中心地フランスで作品を制作・発表していた。
そしてこの星月夜は亡くなる前年の作品・・・。
いろいろな想いが、胸に迫ってくるのではないでしょうか。
【参考情報】ゴッホの星月夜については、こちらで詳しく解説しています!
このように、3つのPを「意識的」に捉えて作品をみること。 これが、美術鑑賞のはじめの一歩になります。
まず、3Pを用いて美術作品の情報を整理する。そうすると、美術作品に少しずつ親しんでいけるようになります。
そうやって「時代、場所、人」を見る感覚を掴んでいくと、作品をより深く、鑑賞できるようになっていくのです。
作品にまつわる情報をざっと整理すると、アーティスト自身のことや、作品の位置付けが分かるようになります。
それを繰り返すと、徐々にですが、西洋美術の大きな流れも分かるようになっていくのです。
いかがでしたか?
参考文献:「論理的美術鑑賞法」堀越啓