ゼロアートのMickeyです。
今日は、「自分がどのくらい美術を深く理解できているのか?」を、客観的に知ることができる指標について、ご紹介します。
「美術がビジネスに役立つ!」といわれるようになり、ビジネスパーソンの間でも「美術鑑賞ブーム」が広がっています。
美術鑑賞によって感性や美意識を高めていくことが、「VUCAワールド(*)をサバイブする鍵」と考えられているからですね。
(*)VUCAワールドとは、変化が激しく(Velotality)、不確実(Uncertainly)・複雑(Complexity)・曖昧(Ambiguity)で予測が難しい世界のこと
一方で、トレンドとして「美術鑑賞が鍵」なのはわかるけど・・・、と戸惑っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今日は、「美術鑑賞のレベル」について、ご紹介していきたいと思います。
自分がいま、どのあたりのポジションにいるのかを知るモノサシにも、この先どんな風にステップアップしていけるのかの道案内にも、活用いただける指標です。
目次
美術鑑賞の5つのステップとは
美術鑑賞には「レベル」があることを提唱している先人たちがいて、鑑賞の深さ、段階を定義しています。
今日ご紹介するのは、『パーソンズの発達理論から見る5つの段階』。
研究者のマイケル・J・パーソンズさんが、美術鑑賞のレベルを研究した結果、分類した5つの段階(ステップ)です。
第1段階:「偏愛主義」(Favoritism)
第2段階:「美と写実主義」(Beauty and realism)
第3段階:「表現性」(Expressiveness)
第4段階:「スタイルと形式」(Style and form)
第5段階:「自主性」 (Autonomy)
この理論では、美術鑑賞には5つのステップ(レベルとも言い換えられます)があると言っています。これに照らせば、自分自身がどの美術鑑賞レベルにいるのか?を、確認することができるのです。
つまり、
「あなたの美術鑑賞のレベルは5段階中、1です」
という感じ。
あくまで理論ではありますが、知っておくと、自分がどのくらいのレベルにいるのかを、客観的に把握できます。
しかしこの理論、、内容を理解するのがなかなかに難しい。
そこで、学術的な意味や言葉は少し脇におき、わかりやすさに焦点をあてて「超訳」してみました。
ひとつずつご覧ください。
第1段階:「偏愛主義」(Favoritism)
第1段階は、「直感的で表面的な好き嫌い」段階といえます。
「好き嫌い」が評価基準で、好きな絵を良い絵とみなす段階です。
例)「私、この絵、赤くて好き!」 →良い絵
「このモチーフは、あんまり好きじゃないな・・・」 →良くない絵
モチーフに対して、表面的な感想を抱く段階です。
背景知識や情報があまりない状態だと、このような感じ方にとどまるとも言い換えられます。
例えば、ピカソの絵になぜあのような高い価値がついているのかは、作品の背景を知らないと全く理解できません。
むしろ、「気持ち悪い」「私にも描けそう」などの感想が、出てくるかもしれません。
これが最初の美術鑑賞のレベルです。
第2段階:「美と写実主義」(Beauty and realism)
第2段階は、「本物そっくりがいい!」段階といえます。
「精密に描かれたモチーフ」基準です。
例)「わー、この猫の絵、本物そっくりですごい!」 →良い絵
「抽象的で、何が描いてあるのかわからないな・・・」 →良くない絵
モチーフが自分にとって良いもので、それが技巧的にも美しく、リアルに描かれている作品に惹かれます。
主に技術について、感想を抱く段階とも言い換えられます。
例えば、美しい富士山がリアルで丁寧に描かれている作品を見て、ポジティブな感情を感じるのが、この段階です。
逆に、本物そっくりでないから良くない、と感じてしまいがちなレベルともいえます。
第3段階:「表現性」(Expressiveness)
第3段階は、「アーティストの生き様や表現がいい!」段階といえます。
「作品よりもアーティストの人生」基準です。
例)「バスキアの生き様が好きっ!絵にそれがあらわれてるっ!!」
作品が写実的かどうかよりも、情熱的、退廃的、悲劇的……などの表現を主として好む段階です。
主にアーティストの生き様について、感想を抱く段階とも言い換えられます。
このような強い表現を好む段階は、激動の人生を歩んだアーティストの生き様などを含めて、作品を評価している段階ともいえます。この段階になると、自らのの内面と照合したり、自分のスタイルと照らし合わせたりして評価を行います。
第4段階:「スタイルと形式」(Style and form)
第4段階は、「アートヒストリーをわかった上で判断できる」段階といえます。
「西洋美術史ベース」基準です。
例)「アートの歴史の流れを踏まえると、18世紀に描かれた・・・が起源であり、現代性を踏まえた描写と、テクノロジーが・・・なので、素晴らしい!」
アートヒストリーをある程度念頭に置いて作品を理解できる段階といえます。
この段階は、例えば絵画であれば、画面全体をくまなく見ることができるような段階です。
ひとつひとつの媒体(描かれている対象)、フォルム(形・形態)、様式(どの時代に描かれた表現方法か)、などがわかります。そして、それらが「なぜ、そのようになっているか」という点も含めて理解できるのです。
この段階になると、いわゆる「美術に詳しい人」であり、「よく勉強している人」、という風にみなされます。
第5段階:「自主性」 (Autonomy)
第5段階は、「評論家的に独自の見解を示せる」段階といえます。
「論理と感性の融合」基準です。
例)「私はこの絵が好き。これまで見てきたどの作品よりも先駆的と感じています。その理由は・・・・であり、そして、それらを踏まえると、私はこの絵を ”次の10年を代表する新たな絵画の形を示した、傑作だと評価できる” と考えます」
ファクト(アートヒストリーやアーティストの人生など)を踏まえた上で、自分なりの見解を表明できる段階です。しっかりと勉強しているため、もちろん通説の見方や、他の評論家の意見もわかっています。そのうえで、疑問を提起し、新たな自分自身の見方を表明できるということです。
この段階に到達するためには、これまでの美術の流れを理解し、美術様式を理解しアーティストや作品を理解し、それらを自らの腹に落とし込んでから、改めてそれらを総覧するという離れ業が必要になります。
そこまでしなくとも、他者との対話や様々な意見などを取り入れることを通じて新たな視点が生まれていきます。それらを自分の意見に取り入れ進化させていくことが、この段階の面白さです。
ここまで到達できれば、作品について自由自在に語ることができるようになり、「美術評論家」と呼ばれてもおかしくない見方ができるようになります。
次々と、新たな「美術作品」が現れることに喜びを覚え、結果、美術のとりこになっていくのです。
*
「超訳」の全体感を示します。
わかりやすくなるように簡潔にしましたが、概ねこんな風に理解していただければ良いと思います。
深い美術鑑賞で身につく能力
美術鑑賞のレベルがあがると、美術をさらに楽しめるようになりますが、得られるものはそれだけではありません。
レベルをあげていくプロセスのなかで、同時に「ビジネスパーソンとして、重宝される様々な能力」が身につていくのです。
これこそが、「美術をビジネスに活用しよう」というムーブメントがおこり、次世代型の能力開発として注目されているゆえんなのだと思っています。
パーソンズは、
「8割以上の人が、2段階までに位置する」
と言っています。
逆に言えば、4段階目まで行けば、
ある程度、人に教えることができる段階になっていると思います。
そして、この第4段階まで来れば、論理性と感性が高まり、
・論理的思考能力
・観察力(見るチカラ、見出すチカラ)
・想像力、創造力
・洞察力、インサイト
・直感的判断力
・言語化能力(わかりやすく伝えるチカラ)
・コミュニケーション力
などの様々な能力が身につくと感じています。
事実やデータなどに基づいて、分析して、結論を示し、人に説明し伝える力は、ビジネスパーソンとして仕事をしていく上で、必要とされる基本的な能力といえます。
このようなビジネスパーソンのOSともいえる基本的な力を向上させるにあたり、美術鑑賞が大きな役割を担っていけると考えています。
美術を学べば人生が豊かになる7段階
ここまで主に、美術鑑賞のレベルアップ、ビジネスパーソンの能力向上について書いてきました。
ですが美術鑑賞は、ビジネスパーソンとしての能力向上にとどまらず、人生を豊かにしてくれるビタミン剤の効能もあります。
そこで私が行うセミナーでは、『パーソンズの発達理論から見る5つの段階』に段階を2つ加え、『美術を学べは人生が豊かになる7段階』という話をしています。
詳細はまた改めて紹介したいと思いますが、
パーソンズの発達理論から見る5つの段階では、第5段階が最終レベルになります。
それまで難しいと思っていた美術を、歴史的な事実や評価、アートヒストリーにおける位置づけ、そして、自分だけの感性から導き出した独自の観点で語れるようになることは、美術鑑賞を通じて学べる究極かつ理想的な姿だと思います。
一方で、人生を豊かにするという視点でみると、その先にもステップアップ(目指すべきレベル)があると思うのです。
具体的には、美術鑑賞のレベルを上げていく学びの中で得た知識や教養。
これが知恵となった結果、「知的財産」という生涯使える財産となる。そして、この財産を人に教え、分かつことで得られる「喜び」こそが、豊かな人生を創っていくのだと、感じています。
参考文献:「論理的美術鑑賞法」堀越啓